団体旅行の添乗で横浜に泊まることになった。
お客様の夕食は自由食になったので、元同僚の月代に電話をして食事に誘ってみた。
懐かしさからか一つ返事でOKが出た。
僕は月代のことが好きで何度も告白したが、その度にふられていた。
僕は都内の旅行会社を辞めてから群馬で旅行会社を起業していた。
彼女は実家の手伝いをしながら障害のある妹さんの面倒もみていたようだ。
横浜駅で待っていると、お父さんの運転で送って来てもらった彼女が助手席から降りてきた。
お父さんはそのまま帰ってしまい挨拶も出来なかった。
その日は土曜日ということもあって店はどこも混んでいて、
やっと入れた夜景が見える居酒屋で時間を過ごした。
添乗員の仲間と数人では良く飲みに行っていたが、彼女と2人で食事どころか過ごすことも初めてだった。
添乗先からは何時間も電話で話して、翌朝ホテルから数万円の請求されたこともあるくらい電話ではいつも会話していた。
久しぶりの会話は盛り上がり時間はあっという間に過ぎてしまった。
お父さんの元に帰さなきゃという気持ちと、一緒に居たいという気持ちが交差していた。
もっと話しがしたくて、彼女の家まで歩いて行く事にした。
坂道にさしかかると僕は彼女の手をそっとつないだ。
手をつなぐだけで、とても幸せだった。
このまま時間が永遠に止まってしまえば、ずっと2人でいられると思った。
しかし、時間が止まることなんてあるわけもなく家の近くまで来ていた。
「ここでいいよ。今日はありがとう。楽しかった。」
「また連絡するね。」
そう言って僕は来た道を戻りホテルへと帰った。
彼女と会ったのも話しをしたのも、その日が最後だった。
僕は彼女に内緒にしていた事があったからだ。